大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和56年(ラ)13号 決定

抗告人 沢田朝義

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「朝義」を「昭鑑」と変更することを許可する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告人作成の「抗告の申立」書記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

(一)  本件記録及び抗告人審尋の結果によると、次の事実が認められる。

抗告人(昭和一七年九月七日生れ)は、昭和三三年二月二四日、沢田芳一と養子縁組の届出をしたが、これより先、同人の妻と従兄妹の関係にある香川県○○○市○○町の○○宗○○○派○○院の住職沢田朝善に後継者がなかつたことから、昭和三二年一〇月頃、同寺院を継ぐこととなり、その頃得度し、翌三三年四月○○○高校に、昭和三六年四月○○○大学に入学し、同山内の寺で起居しながら勉学と修行に励んだ。そして、同年頃○○宗○○○派に入派したものの将来○○院を継ぐつもりでその名「好樹」を、家庭裁判所の許可を得て、前記○○院住職沢田朝善の一字「朝」を受けて、「朝義」と改めた。

ところで、抗告人は、同大学卒業後も○○○にとどまり、昭和四一年四月同大学図書館に勤務していたが、前記○○院が無住となつたことから、昭和四四年四月同院に移つたものの、従前の住職代務者、門徒との間の調整が思わしくなく、結局住職の地位に就き得ないまま一〇年近くが経過した。

抗告人は、○○院に居た頃より、岡山県○○市○○の○○○派○○院住職山崎昭修に呼ばれ、同寺院の寺務を手伝つていたが、やがて、同師の徒弟となり昭和五五年四月一二日○○○派に復したところ、同師の兄弟弟子の間柄にある同市○○○○○派○○院の住職笠原昭了が老齢のため寺務を執り難い情況であつたので、○○院を継ぐこととなり、昭和五六年八月同院に移り、昭和五七年一月同寺院の住職に任ぜられ、かつ、その責任役員となつた。

○○院は檀家三七〇家を有し、○○期創設といわれているところ、抗告人は今後同寺院の住職として、宗教活動に専念するものであるが、同寺院の住職である者は、従来よりその僧名に「昭」を用いる慣わしであり、かかる名を用いるのでなければ、法類寺院や檀家との関係では、その住職としての寺務を全うするには、後記のような支障を生ずることから、抗告人は、師の昭修の教示をも容れて「昭鑑」と称して、住職の寺務に従事しているものの、なお、改名していないものであるため、公的機関との関係、その他直接には宗教的活動とかかわらない日常生活分野においては、本名を使用するほかないが、○○院住職の地位にありながら伝来の「昭」の字を冠する名でないことから、なお、法類寺院ないし門徒に対し、他派の無縁の僧であるかの印象を与え、ひいては、敬愛、尊崇の念を得がたい虞れがあり、かつ、日常生活上も僧名が通称となつていることから、かえつて、不便を被つている。

(二)  右(一)に認定の事実によつて考えると、抗告人は、現に○○○派○○院住職の地位にあり、今後も右の住職であるものと認められるところ、前記認定の事情の許では、抗告人が右寺院の住職としての社会的ないし宗教的活動を円滑に営むためには、その名を昭鑑と改める必要があるものと解されるから、本件は、改名の正当の事由があるものというべきである。抗告人は、先に僧籍に入つたことから改名し、更に再び改名しようとするものであるが、先の改名より既に二〇年近くを経ているところ、現に改名を必要とする抗告人の新たな○○院住職として宗教的ないし社会的活動は、先の改名後の「朝善」の名の許でした○○○派僧侶としての宗教的、社会的活動とは、全く別個の地域及び寺院、檀徒関係におけるもので、かつ、従前の地域及び社会関係との交渉は殆ど絶えたものであり、現に「昭鑑」の法名が通称として行れているものであるから、更に改名することにより、特に呼称上の社会的混乱を生ぜしめる虞れがあるものとは解し難く、抗告人が先に改名したことをもつて、本件改名の正当事由を否定すべきものとはなし難く、また、抗告人が、前記説示の事由のほか、他に不当な目的で名の変更を求めるものと窺わせるところはない。

(三)  よつて、抗告人の本件申立はその理由があるから、家事審判規則一九条二項を適用して、原審判を取消し、審判に代わる裁判をすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安井章 裁判官 萩尾孝至 北村恬夫)

抗告の趣旨

原審判を取消し、本件を岡山家庭裁判所玉野出張所に差戻すとの裁判を求めます。

抗告の理由

一 私は昭和三六年一一月より僧籍に入り、今日に至つて居りますが、今般師匠替えのため名の変更を求めたのですが、師匠が変る度に名を変更していては、社会的混乱を招くということで却下されましたが、それは次の理由により不当です

二 イ 私の現在居る○○院の住職は代々昭の一字をつけている。

ロ 私が昭和五五年○○院住職山崎昭修の徒弟となり○○院をあずかるに当り、師匠昭修の一字昭をさづけられ○○院をつぐことになつたものである。

ハ 既に本山である○○○○○宗から昭鑑と改名する承認をうけておる。

ニ 法類寺院(葬儀等の時互に応援に行き来する俗に親族つきあいの寺)でも昭鑑という名でとおつている。

三 以上の事由により、抗告人が改名しても一般通常人と異なり社会的混乱を来すことは考えられず、抗告人が改名しなければ抗告人の住職としての使命が十分果せられませんので、是非改名を許可して戴きたく本申立に及びます。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例